あなたは子供の頃の悩みを今でも覚えているだろうか?
私は自分の声が嫌いで嫌いで仕方なかった。
理由はよくわからないが中学生の私は自分の声にうんざりしていた。
今ではなんとも思わないので(もうちょっと人並みな滑舌は欲しいが)あの時はなんであんなに悩んでいたのだろうといった感じである。
傍ら見るとちっぽけでも、本人から切実な悩み。誰しもそういった経験があるのではないのだろうか?
では、人の血を吸いたくて悩んだことはあるだろうか?
人を催淫してしまって悩んだことはあるだろうか?
自分の首と胴が離れていて悩んだことはあるだろうか?
普通の人ならばそんなことはないのだろうが
そういった、〝普通じゃない悩み〟がゆるっと語らられるのが、漫画『亜人ちゃんは語りたい』である。
亜人(デミ)とは何か。
神話や御伽のモチーフにもなっているヴァンパイア、デュラハン、雪女らの特別な性質を持った人間のことである。
そんな、「亜人としての悩み」を抱えた高校生と生物の教師である主人公の交流によって織り成される学園でのコメディーである。
これは「差別」ではなく「個性」について語られる漫画である。
物語の設定として亜人達が差別や迫害を受けることはない、亜人であることが個性として認められるようになった世界の話。
それでも、亜人でもあり、高校生でもあるヴァンパイア、デュラハン、雪女達は
「首から胴が離れている」等の世界で自分しか抱えていないであろう悩みに頭を抱えたり、「なんだこんなことで悩んでいたのか」と ある日パタリと悩みから抜け出たりの日々を送る。
誰しもが経験があるだろうが、子供の頃の悩みが当時の自分らにとって切実で、かつ、今振り返ると「あれ?なんであのことで悩んでいたのだろう」となるのは亜人でも人間でも同じなのかもしれない。
この作品の中で忘れられない言葉がある。
「 らしさ は生まれ持った『性質』ではなく『性質』を踏まえてどう生きるかだ」
若干のネタバレになってしまったが、この言葉をここでただの言葉として読むのとと漫画を通して読むのでは感じるものが180°変わって見えることはうけあいである。
もし、中学生の時の自分に出会えるとしたら、鬱々と小さなことに大きく悩んでいる自分のこの漫画を渡したい。
ゆるっとしたコメディーでも読もうかと思ってる人にも、ちょっと考えてごとをしたい人にもオススメしたい一冊。