ある日の晩、自宅のベッドで溺れた。
何を言っているのかわからないと思うが、私も何が起きたかわからなかった。
その日は、なかなか寝付けなかった。眠れないなぁと思いながら、横になっていると息が苦しくなり、だんだんと呼吸が荒くなり、最終的には呼吸の仕方がわからなくなった。
結果として、1人ベッドの上で水揚げされたマグロみたいになりながら、「ァッッ、ァッッ. . .ァァ」という聞いたことのない音が喉から発せられていたような気がする。
振り返ると、あれは過呼吸だったのだろうが、それが自分の身に起きた時は文字通り何が起きたかわからなかった。ただ、「これは、アカンやつかもしれない. . .」恐怖したのは覚えている。
思えば、体調が良くない。よく眠れないし、偏頭痛が週2.3であり、食事の後は気持ち悪くて仕方ない、ついでに終始息苦しい。
ちょっと疲れているのだろうと思い睡眠と休養を心がけていたが、「ベッドで溺れるのは疲れているとかではないよなぁ. . .」と思い病院へ受診することになる。
生まれて初めての精神科なるもので、検査とカウンセリングを終えて、メガネの優しそうな先生はゆっくりと言った。
「あなたは今、うつ状態にあり、それによって様々な症状が出てしまっています。うつ状態にありますが、病名としてはうつ病ではなく、適応障害というものです。」
これが私と適応障害との出会いである。
本記事は、私が適応障害になった時のこと。適応障害って何なのか。適応障害になり感じたことについて自分なりにまとめたものである。
あくまで、個人の主観と偏った情報によるものなので、こんなこともあるのか程度で見ていただけると幸いである。
そもそも、なんでこんなことを書くのか。
この病気を通して、心の病は誰でもなり得ることであるということを知った. . .というか思い知らされた。私の拙い文ではあるが、少しでも私の体験が何かに参考になればと思い、これを書いている。
そして、今に至るまでに多くの方に心配とご迷惑をかけてしまった。助けになってくださった方、あえて深いことを追求せずに受け入れてくださった方には感謝しかありません。適応障害になった時には、私自身の余裕がなさすぎて、説明をした方々にもうまく伝えることができなかった為、整理と説明の為にもこれを書いています。
そもそも、適応障害とはなんなのか?
適応障害は、ある特定の状況や出来事が、その人にとっての主観的な苦悩(とてもつらく耐えがたく感じ)を生み、そのために気分や行動面に症状が現れるものです。たとえば憂うつな気分や不安感が強くなるため、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になったりします。ーーー適応障害とは、ある生活の変化や出来事がその人にとって重大で、普段の生活がおくれないほど抑うつ気分、不安や心配が強く、それが明らかに正常の範囲を逸脱している状態といえます。
参考:池澤クリニック 病気解説 適応障害
わかりやすくいうと、ストレスによって抑うつ状態、不安障害、身体症状が引き起こされている疾患(状態)のようだ。
私の場合はいうと身体症状が強めで、不眠・偏頭痛・吐き気・嘔吐・息苦しさ・ストロングな無気力感・虚無感が続き、ベッドで溺れるに至った。
精神科は近くて遠かった
Shrink〜精神科医ヨワイ〜 という漫画で精神科医である主人公が「失恋した。ペットが死んだ。テストの点数が悪かった。ーーー『そんなこと』で精神科にかかっちゃダメですか?」と語るシーンがある。
その漫画を読んだ時は、まだ体調がなんともない時期で何気なく手に取った漫画だったので、気にも止めなかったワンシーンであるが適応障害になり、この言葉の重みを知った。
適応障害になり思った。精神科に行くのって難しいのだ。
まず、病院に行こうとする判断自体が難しい。
心の不調から体調を崩したとして、それを観察して、病院に行く判断をするかどうかはかなり個人差があるのではないのだろうか。
ちょっと眠れない、ちょっと気持ち悪い、ちょっと頭が痛い. . .それらの症状が出たとしても、大多数の人々は疲れているだろうから休養を取ろう。鎮痛剤でとりあえず、症状を抑えよう。そんな風に思うではないか。それらの症状が加速したり、継続したところで「よし!精神科を受診しよう」という方は少ないのではないのだろうか?
私の場合も、ちょっと疲れているのかなと思っていたら、坂を転げ落ちるように体調を崩し、ベッドの上で溺れることになる。過呼吸や嘔吐、いつも効くはずの薬が効かない頭痛、そんな「なんだこれは!?」な身体症状が出てやっと「これはヤバいかも. . . 」と自覚することができた。
その時は自分の身体に何が起きているのか恐怖でしかなかったが、それらをきっかけに病院に行こうと思えたのは、振り返ると幸運であったと思う。
ただ、いざ病院に行こうと思ったとして、受診できるかは別の話である。
いざ病院に行かねばと決心をして、予約を取ろうとするが、取れないのだ。予約が。
初めてかけた予約の電話でかえってきた答えは「初診できるのは1ヶ月先です。」というものだった。受診したくてもすぐに受診できないということを想定していなかった私の目の前は真っ暗になった。
あくまで、個人の体験なので、地域差があるのだろうが、2件目は初診の受診が予約がいっぱいで難しいと言われ、3件目でキャンセルが出たので、6日後のある時間帯であれば診察ができると言われ。すがりつくように予約を取った。
病院に行くまでの6日が途方もなく遠く遠く感じたのは、今でも覚えている。
知っていれば救われることがあること
病院に行く前は、頭痛とストレスから満足に眠ることもできず、食べていてもそうでなくとも吐き気が止まらず、時には嘔吐し、終始息苦しく、食べることどころか呼吸をすることすら満足にできなくなってしまっていた。
そして、どんな身体症状よりも何より、身体と心のコントロールを失い、自身に何が起きているかが理解の範疇を超えていて、恐ろしくて恐ろしくて仕方なかった。
やっとの思いで受診した病院で検査とカウンセリングを受けた後に先生が言った。
「あなたは病気なんです。本当に大変でしたね。ゆっくり治療していきましょう。」
そう言われて、気づくと私の視界は滲んでいた。この一言を私は忘れることはないだろう。
訳も分からず、体調を崩し、無気力な状態になり、心や身体、思考のコントロールを奪われることは恐怖以外の何者でもなかった。「あなたは何もおかしくない。ただ、病気なのであって、症状が出ているだけ。」そう言われたことで救われるものがあった。
病院を受診して、何が起きているか知ることができてよかった。私の場合は、病気として認識することで、自分の身体に起きていることを整理し、治療を始めることができた。
しかし、治療したい、病気について知りたいと思っても、適応障害になることで集中力を要することや新しいことのインプットが難しくなってしまったので、なかなかそれもできないとジレンマに陥ることになる。日々の中で病気に対してこれってどうしたらいいんだろうということも湧いてくる。
勿論、通っている精神科は親身になって話を聞いてくれて、薬についても詳しく教えてくれて、治療方針も示してくれていたが、それだけではわからないことも沢山あった。
私の場合は、幸いそういった病を経験している友人や家族が心の病になり支えていた経験のある人が身近におり、そんな人達に話を聞いてもらうことができたのは救いだった。
適応障害を通して、心の病がいかに身近なものであるのかを思い知らせた。よく話に出てくるような「まさか、私が. . .」というセリフを、私も漏れなく吐くことになった。
そして、適応障害になって思ったのは、心の病気やメンタルのケアについて、もっと知っておけばよかったということだった。周りにそういった人がいる人、いない人に関わらず、何らかのコンテンツで心の病などに触れることは、もしかしたら、それが数年後のあなたや周りの人の助けとなることなのかもしれないと今は思う。
たぶん、本を読んでも救われない。
適応障害になって、ベッドで過ごす時間が圧倒的に増えた。体調の不調や無気力感からただただ横になる日々だったが、漫画やアニメ、ラジオ、本に触れている時は、それらの不調が軽くなる瞬間があった。
岳、宇宙兄弟、リアル、無職転生、映像研には手を出すな、ヒナまつり、亜人ちゃんは語りたい、推しの子、ハライチのターン、うつくしいひと、終末のフール、我が家の問題. . . . . 作品に浸っている時は、気持ち悪さや頭痛、胸の重みが軽くなる瞬間があった。
選書家である幅允孝さんの言葉にこんなものがある。
「たぶん、本を読んでも救われない。けれど、耐えられるかもしれない。とは思う」
その言葉の通り、降りかかる不調や落ち込みの中でも、本や漫画、アニメに触れている瞬間は不調や落ち込みが軽くなる瞬間があった。色々な作品に、"今を耐える力"をもらっていた。
この病気を通して、エンタメの持つ力をまざまざと見せつけられたような気がする。
最後に
ここまで、長々と書き連ねましたが、今はと言うと、だんだんですが良くなってきました。
治療の為の薬は続けていますし、体調が良くない日もありますが、だいぶ良くなりました。
改めて、今に至るまで、助けになってくださった方、あえて深いことを追求せずに受け入れてくださった方には感謝しかありません。本当にありがとうございました。
そして、最後にここまで読んでいただいたことで、心の病について少しでも関心を向けるきっかけになれば幸いです。
終わりに、適応障害になり、出会った、もしくは、改めて読み返した本を紹介します。
Shrink〜精神科医ヨワイ〜
パニック障害、うつ病、発達障害、PTSDなど、心に病を抱えた人々と主人公である精神科医が向き合う様を描いた漫画。
心の病に関心にない人でも楽しめる作品であるが、様々な心の病がリアルに描かれているので、読んでいるうちにそれらの病についても関心が湧いてきます。
なにより、心の病や精神科が身近なものであることを教えてくれる良書。もし、友達や家族がそういった病を抱えている人ならより深く刺さるであろう漫画です。
疲労やムリ・ムダ・ムラが人の心にどのような影響を与えるのかわかりやすく教えてくれる本。
メンタルが落ちている、頑張りすぎているかもという人は勿論、ムリ・ムダ・ムラが組織に対してどのような影響を及ぼすのか、人はどのようにして病んでいくのかな話も出てくるので管理職の方におすすめの一冊。
うつからの脱出
実際に病気になってどうしよう. . .となっていた時に出会った本。うつがどういった状態であるのか、治療を行うにあたってのことをわかりやすく教えてくれました。何よりこの本が良かったのが、うつ状態の"わけのわからなさ"への恐怖、うつの波の揺れからのイライラなど、そういった話しにくい、理解され難い状態にも共感を持って書かれているので、励まれながら読むことできる本です。
以上、適応障害レポでした。ここまでお読みいただいてありがとうございました。